「見て覚えろ」はやめました。東京の職人に、教え方の話を聞いてみた
その前に、うちが何をしている会社かを話させてください
車に乗っていて、ガードレールを意識することはまずないと思います。標識も、高速道路の防音壁も、あって当たり前のものとしてそこにあります。
あれを地面やコンクリートに固定しているのが、うちの仕事です。
「あと施工アンカー」と言います。言葉だけでは何も浮かばないはずなので、東京支店で11年働く K.M さん(工務部 関東工事課)に説明してもらいました。
「ガードレールとか標識の、柱を固定する部材を固定するアンカー」
「固定するボルトを、コンクリートに打ち込む」
もうひとつ、橋の仕事があります。ここで出てきた話が、聞いていていちばん背筋が伸びました。
「橋梁の補修・保全ですね。落橋防止のブラケットといって、大きい鋼材をつけるんですけど」
「ちょうど熊本で地震があったじゃないですか。高速道路の橋がちょっとずれた、1メーターずれたとか」
「ただ、1メーターずれたところで止まるっていうのは、そのブラケットが支えになって」
橋が落ちずに済んだ理由が、そこにあります。
K.M さんは以前、新東名の防音壁の柱を留める仕事で、1年ほど静岡に入っていたそうです。毎日アンカーを打っていた、と言っていました。
派手ではありません。ただ、誰かが打たなければ、ガードレールはただの鉄の板です。
教え方が、変わりました
建設の現場と聞いて、怒鳴られる、見て覚えろと言われる。そういう想像をする人は多いと思います。
K.M さん自身、その時代を通ってきた人です。業界歴は20年近くになります。
「僕らの昔みたいな、やって覚えろとか、物が飛んできたりとか」
「そんな時代だったけど、もう今はそんな、絶対ダメじゃないですか」
新しく入る人に、どう教えるか。K.M さんはいま、その方法を自分で組み立て直しているところです。
「もっと時間を割いてでもやるべきなのかなっていうふうに、自分もいろいろと考えながら」
最初は誰でもできません。そこを前提に置いて教える、という話でした。
ただ、ひとつだけお願いがあるそうです
「入ってくる人に伝えておきたいことはありますか」と聞いたら、こう返ってきました。
「教えることは教えます。聞く姿勢っていうか、そちらもしっかりした礼儀を持ってきてくださいよと」
そのあとに続いた言葉が、たぶん本音です。
「こいつには教えてやりたいなとか、思わせてほしいじゃないですか」
「ええ感じだなと思ったらね、こっちもしっかり教えようと思うし」
技術は教える。ただ、教わる側の姿勢まではこちらでは用意できない。
逆に言えば、それさえ持ってきてもらえれば、あとは全部こちらの仕事だ、という話でもあります。
向いているのは、意外な人でした
まじめ一辺倒の人が向いていると思っていました。聞いてみたら違いました。
「やんちゃでも全然オッケーですね。むしろそっちの方がいいかなと思います」
なぜか。この仕事が、黙々と作業するだけではないからです。
「職人でもあるし、対人。現場のお客さん相手に、営業じゃないですけど自分らをアピールできたりとか」
「お客さんに好かれる子っていうのは得をしますよね」
現場では、施工しようとしてできない場面が出てきます。そのときに「こういうふうにした方がいいですよ」と提案できるかどうか。そこで差がつくそうです。
K.M さんが挙げた具体例が、分かりやすかった。部活動をやっていた人です。
「一人で練習することもあるし、みんなでやるし、上下関係もしっかりやってるやろうし」
実際の現場も、その両方でした。
「個人一人で黙々とアンカーを打ち続けることもあるし、何人かで分担してやる場合もあるし」
面白さは、たぶん地味なところにあります
やりがいを聞くと、まず「達成感」という言葉が出てきました。目に見えて、これだけやったと分かる。分かりやすい方の答えです。
面白かったのは、そのあとでした。
「この作業に対して、どうやったら早くできるか、どうやったらきれいにできるかっていうのを突き詰めていくんですよね」
「一箇所やるのに時間を計りながらやったりとか」
「ちょっとこうしてみよう、ああしてみようって手を加えていくうちに、どんどんその時間が短くなるじゃないですか。それが嬉しかったり」
そして、こう付け足しました。
「自己満足なんですけど」
たぶんこれが、20年続いた理由です。誰かに褒められるからではなく、昨日の自分より速くきれいにできたことが面白い。そういう種類の面白さです。
初めて現場に立った日のことも聞きました。
「すげーな、これこんなんできんの、っていうイメージはあったけど」
「やってしまえば、終わらない現場はないんで」
「なんやかんや言いながら『終わったやん、うまいこといったやん』っていう現場の方が多いんで」
いま、東京で人を探しています
東京支店の工事部は、いま K.M さんを含めて2名です。
「今、僕より下っていうのが、もういない状態なんですよね」
だから募集をかけています。教える側の人数が少ないうちは、逆に言えば一人ひとりに時間を割けるということでもあります。
働き方も、想像されるほど無秩序ではありません。現場のない日は東京支店に出て、引張試験の報告書を作ったり、次の現場の準備をしたりします。休日は土日が基本で、現場の都合で出た日には手当がつきます。年間休日は126日(2026年度実績)です。
雨の日はこうなります。
「その現場を担当している職長が、『この雨ではちょっと無理ですよ』とお客様にお伺いを立てて、お客様判断で中止するしないが決まる」
中止になれば事務所に戻り、書類を整理したり道具の手入れをしたりします。
未経験からこの仕事に入るとき、いちばんの不安は「自分にできるのか」だと思います。
K.M さんが毎日向き合っているのも、まさにその不安でした。
そのうえで、彼はこう言っています。教えることは教える。だから、聞く姿勢だけ持ってきてほしい。
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